「住みたいまちランキングの罠」を書いたとき、中で吉祥寺のことを言及した。文中にも書いたが私は吉祥寺には自転車で行けるエリアが生活圏だったことがあり(ただし、最寄り駅は吉祥寺ではない)、執筆に当たっては久々に何度か現地視察に行き写真も撮り、まちの変貌を再体験した。
一方で、見出しのような題名の漫画があることは知っていたが、当時はあえて読まずに自著を書いた。
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そして1年半が経ち、何のご縁か、この漫画を手に取る機会があった。私自身、「住みたいまちランキングの罠」の執筆に当たり分譲派から賃貸派に転換し、同居人を説得してその後自宅マンションも売った(その体験記はまさに現代ビジネスで連載中)。これからは一生賃貸でいいやと決め込む中で、賃貸・引っ越しが前提の街選び漫画と出合ったのは不思議な気分である。以下、まち・不動産業界評論っぽく感想を書いてみる。
吉祥寺にある不動産屋に転居先探し中の(いま一人暮らしか、実家から独立、離婚で一人暮らしを始める)女性客がやってきて、当地の物件を探そうとするが、主人公(双子女性)は客の転居理由を聞いているうちに吉祥寺以外のまちがふさわしいと判断。ほぼ毎回、目的のまちへの案内を強行する。移動した先ではグルメスポットなどを紹介し、不動産屋が客に軽食をおごったりもする。多くの場合、客がそのまちのすばらしさや特徴ある物件スペックに魅了されてそこに決める、というパターンの物語。
手数料がたかだか家賃1か月分にしかならない賃貸仲介で、同意するかもわからない1件の内見にそんなに手間暇(+おカネ)をかけるわけねーだろ!と言う突っ込みは野暮だろう。刑事ドラマだって学園モノだって、リアリティがありそでないんだから。面白いストーリーは、事実では作れないのだ。
要するにこの漫画がやりたいことは、一種の「アド街」なのだろうことはわかりつつ、それを理解すればするほど、自分も「ああこの町に引っ越したい」という気分に駆られる。 ああ、賃貸派になっていてよかった、と思う瞬間だ。
もっとも、この漫画は、冒頭で紹介した通り、独身一人暮らし女性の新たな住まい探し、というのが基本モチーフになっていて、所帯じみた人々の新居選びの話は今のところ出てこない。そういうモチーフを示して、(子どもの転校を伴ってでも)転居暮らしも悪くないね、みたいなチャレンジングな漫画が出てくると面白いんだけどな~。